最近、愛犬が部屋の隅で立ち止まる、呼んでも反応が遅い、夜に落ち着かない——それは年齢による変化かもしれませんし、「認知症(認知機能不全症候群)」のサインかもしれません。この記事では、獣医療で使われる6つの観点にそったチェックリスト、年齢とともに増える傾向を示す研究データ、ほかの病気との見分けが必要な理由、受診の伝え方、毎日の暮らしでできる工夫までをやさしくまとめました。
「部屋の隅で、壁を見つめたまま立ち止まっていることがある」「名前を呼んでも、前ほどすぐに振り向かない」「夜中にうろうろして、なかなか寝てくれない」——年齢を重ねた愛犬のこうした様子に、「もしかして認知症?」と胸がざわついた経験はありませんか。
犬にも、人の認知症に似た状態があることがわかっています。獣医療では「認知機能不全症候群(にんちきのうふぜんしょうこうぐん)」と呼ばれ、英語の頭文字から「CDS」や「CCD」と書かれることもあります。
結論からお伝えすると、大切なのは次の3つです。①「年のせい」と決めつけず、変化を具体的にメモする。②ほかの病気が隠れていないか、動物病院で確かめてもらう。③うちの子が安心して過ごせる環境と、毎日の小さな楽しみを用意する。
この記事では、獣医療で使われている6つの観点にそったチェックリストを中心に、年齢との関係、受診のときの伝え方、暮らしの中でできる工夫を順にご紹介します。
目次

犬も年齢を重ねると、寝ている時間が長くなったり、動きがゆっくりになったりします。これは自然な変化です。
一方、認知機能不全症候群は、脳の働きの変化によって、記憶や学習、周りの状況の理解、睡眠のリズムなどに影響が出てくる状態とされています。慣れているはずの家の中で迷う、覚えていたトイレの場所を失敗する、家族への反応が変わる——といった、ふだんの行動の変化として現れるのが特徴です。
ただし、どこからが「自然な老化」で、どこからが「認知機能不全症候群」なのか、はっきりした線を飼い主さんが引くのは難しいものです。だからこそ、気になる変化に早めに気づき、専門家と一緒に見ていくことが大切になります。
海外の研究では、年齢が上がるほど、こうしたサインが見られる犬の割合が増えることが報告されています。
| 年齢 | 報告されている割合 |
|---|---|
| 11〜12歳 | 約28%の犬に、少なくとも1つの領域で変化が見られた |
| 15〜16歳 | 約68%の犬に、少なくとも1つの領域で変化が見られた |
(Neilson ら, 2001年。アメリカの飼い主アンケートにもとづく研究)
数字だけを見ると驚くかもしれませんが、これは「変化が1つでも見られた犬」の割合で、すべてが重い状態という意味ではありません。研究によって調べ方や数字には幅があります。それでも、シニア期に入ったら、誰にでも起こりうる身近な変化として知っておくことには意味があります。
なお、海外の動物病院向け資料では、犬の場合7歳ごろから年に1回、行動の変化を確認していくことがすすめられています。大型犬は小型犬より早く年をとる傾向があるので、体の大きさも目安になります。

獣医療では、認知機能不全症候群のサインを、6つの観点の頭文字をとって「DISHAA(ディシャー)」として整理することがあります。ここでは、その観点にそって、ご家庭で気づきやすい様子をまとめました。
うちの子に当てはまるものがないか、ゆっくり思い浮かべてみてください。
「見当識」とは、少し難しい言葉ですが、簡単にいうと「今どこにいて、何が起きているかを理解する力」のことです。

ひとつの観点だけでなく、複数の観点で変化が見られる場合は、単なる年齢の変化以上のものが関わっている可能性があるとされています。一方で、当てはまる項目があったからといって、それだけで「認知症」と決まるわけではありません。このチェックリストは診断のためのものではなく、動物病院で相談するときの手がかりとして使ってください。
(夜間の落ち着かなさについては、別記事「犬が急に落ち着きがない・夜にウロウロ」「夜中に何度も起きる愛犬」でもくわしくご紹介しています)

認知機能不全症候群のサインに見える行動の中には、別の病気や体の不調が原因になっているものも少なくありません。たとえば、次のようなケースです。
そのため、動物病院では、行動の変化を聞きとったうえで、ほかの病気が隠れていないかを確認しながら判断していきます。必要に応じて血液検査などが行われることもあります。
自己判断で「認知症だから仕方ない」としてしまうと、楽にしてあげられたはずの不調を見逃してしまうかもしれません。気になる変化があれば、まずは相談してみる——それが、うちの子にとってもいちばんの近道です。
診察室では緊張して、うまく説明できないこともありますよね。次のようなことをメモしておくと、伝えやすくなります。
さらに、夜にうろうろする様子や、隅で立ち止まる様子をスマートフォンで動画に撮っておくと、診察室では見せない行動も獣医師に伝わります。
現時点で、認知機能不全症候群を根本から治す方法は確立されていません。そのうえで、動物病院では、症状の程度やその子の体の状態に合わせて、お薬や食事、生活環境の見直しなどを組み合わせた対応が検討されます。
サプリメントや食事を変える場合も、ほかの持病や飲んでいるお薬との関係があるため、始める前にかかりつけの獣医師に相談することが大切です。行動面の悩みが大きい場合は、行動診療を専門にする獣医師に相談するという方法もあります。
ここからは、うちの子が安心して過ごしやすくなるための、暮らしの工夫をご紹介します。どれも「これをすれば治る」というものではありませんが、うちの子と家族の毎日を少しでも過ごしやすくするための工夫です。

(床や段差の工夫については、別記事「シニア犬の住環境づくり 滑らない床と段差の工夫」でくわしくご紹介しています)
昼と夜のメリハリがつくと、夜に落ち着かない様子がやわらぐこともあります。

難しすぎると、かえって不安やストレスになることもあります。うちの子が楽しそうにしているかどうかを目安に、無理のない範囲で取り入れてみてください。
トイレを失敗してしまったとき、叱っても、犬にはなぜ叱られたのかがわかりにくくなっています。叱られることで不安が強まることもあります。
「できなくなった」ことより、「できる形に整えてあげる」ことを考えていけるといいですね。
夜中に何度も起こされたり、トイレの片づけが続いたりすると、飼い主さんの心と体にも負担がかかります。うちの子を大切に思うほど、「私ががんばらなきゃ」と抱えこんでしまいがちです。
飼い主さんが少しでも休めることは、結果的に、うちの子の安心にもつながります。頼れるものには、遠慮なく頼ってくださいね。

ここまで、犬の認知症(認知機能不全症候群)がどんな状態なのか、6つの観点にそったチェックリスト、ほかの病気との見分けが必要な理由、受診のときの伝え方、そして暮らしの工夫をご紹介してきました。
あらためて整理すると、大切なのは、変化に気づいたら具体的にメモをすること、「年のせい」と決めつけずに動物病院に相談すること、そして安心できる環境と小さな楽しみを用意することの3つです。
年齢を重ねて、できることが少しずつ変わっていっても、うちの子が家族を大切に思う気持ちは変わりません。今のうちの子に合わせたペースで、一緒に過ごす時間をゆっくり楽しんでいけますように。
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